ベンダーへの丸投げは自殺行為。開発会社と対等に話すための最低限のIT知識
「全部お任せ」が招く悲劇——なぜベンダー丸投げは危険なのか
「技術のことはわからないので、全部お任せします」
システム開発の現場で、この言葉ほど危険なものはありません。
多くの起業家が「餅は餅屋」の精神で開発会社に全てを委ねますが、その結果として起きる悲劇は枚挙にいとまがありません。
よくある丸投げの末路:
- 当初の見積もり500万円が、気づけば1,500万円に膨らんでいた
- 納品されたシステムが使いにくく、社員が誰も使わない
- 「仕様変更」のたびに追加費用を請求され、言われるがまま支払っている
- 完成したシステムが1年後には時代遅れになり、作り直しが必要に
- 開発会社との契約が切れた途端、保守ができる人がいなくなった
これらは決して珍しい話ではありません。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査によると、システム開発プロジェクトの約7割が「失敗」または「部分的な成功」に終わっているというデータもあります。
そして、その失敗の多くは発注者側の知識不足が原因なのです。
あなたは悪くない——でも、知らないままではいられない
「でも、自分はエンジニアじゃないし...」
そう思われる気持ちは痛いほどわかります。
起業家として、あなたには本業があります。営業、マーケティング、資金調達、採用...やるべきことは山積みです。その上で「プログラミングを勉強しろ」と言われても、現実的ではありません。
しかし、だからといって「知らなくていい」わけではありません。
考えてみてください。あなたは会計の専門家ではなくても、決算書の読み方くらいは知っているはずです。税理士に全て任せていても、「売上」「利益」「キャッシュフロー」の違いくらいは理解しているでしょう。
なぜなら、それを知らないと経営ができないからです。
ITも同じです。現代のビジネスにおいて、システムは会計と同じくらい——いや、それ以上に重要なインフラになっています。
「技術のことはわからない」で済ませられる時代は、とっくに終わっています。
この記事で身につく「対等に話せる」IT知識
この記事では、非エンジニアの起業家が開発会社と対等に話すために最低限必要なIT知識をお伝えします。
プログラミングができるようになる必要はありません。コードを書く必要もありません。
ただ、以下のことができるようになることを目指します:
- 開発会社の見積もりが妥当かどうか判断できる
- 「なぜこの技術を選んだのか」を質問できる
- 追加費用を請求されたとき、それが正当かどうか見極められる
- 将来のリスクを見据えた発注ができる
これらの知識は、あなたのビジネスを守る「盾」になります。
開発会社と対等に話すためのIT知識
開発会社と対等に話すための7つの必須知識
1. フロントエンド・バックエンド・インフラの違いを理解する
システム開発の世界は、大きく3つの領域に分かれています。
フロントエンド(Frontend) ユーザーが直接目にする部分です。Webサイトの見た目、ボタンの配置、フォームの入力欄など、「画面に表示されるもの」全般を指します。
スマートフォンアプリでいえば、アプリを開いたときに見える全ての画面がフロントエンドです。
バックエンド(Backend) ユーザーからは見えない「裏側」の処理を担当します。データベースへの保存、計算処理、外部サービスとの連携など、システムの「頭脳」にあたる部分です。
例えば、ECサイトで「購入ボタン」を押したとき、在庫を確認し、決済を処理し、注文データを保存する——これら全てがバックエンドの仕事です。
インフラ(Infrastructure) システムが動くための「土台」です。サーバー、ネットワーク、セキュリティ設定などが含まれます。
見積もりを見るとき、これら3つの領域がそれぞれどのくらいの工数・費用になっているかを確認しましょう。バランスが極端に偏っている場合は、理由を質問すべきです。
2. 「工数」の概念と見積もりの読み方
開発会社の見積もりには、必ず「工数」という概念が登場します。
工数とは、「作業量」を時間で表したものです。
一般的には「人月(にんげつ)」や「人日(にんにち)」という単位で表されます。
- 1人月 = 1人のエンジニアが1ヶ月フルタイムで働く量
- 1人日 = 1人のエンジニアが1日フルタイムで働く量
例えば「10人月」という見積もりは、「1人で10ヶ月」でも「10人で1ヶ月」でも「5人で2ヶ月」でも、理論上は同じです。
ただし、ここに落とし穴があります。
実際には、人数を増やしても開発期間は単純に短縮されません。人が増えればコミュニケーションコストが増え、かえって効率が下がることもあります(これを「ブルックスの法則」と言います)。
見積もりを見るときは、以下を確認しましょう:
- 各機能にどのくらいの工数が割り当てられているか
- 単価(1人月あたりの金額)はいくらか
- テストや修正の工数は含まれているか
3. 「要件定義」の重要性を知る
システム開発で最も重要なフェーズが要件定義です。
要件定義とは、「何を作るか」を具体的に決める作業です。
多くの失敗プロジェクトは、この要件定義が曖昧なまま開発に突入しています。
「なんとなくこんな感じで」「細かいことは作りながら決めましょう」——こうした曖昧な進め方は、後から必ずトラブルを招きます。
要件定義で決めるべきこと:
- どんな画面があるか(画面一覧)
- 各画面でユーザーが何をできるか(機能一覧)
- データはどのように保存されるか(データ設計)
- 誰がどの機能を使えるか(権限設計)
- 異常時にどう対応するか(例外処理)
- どのくらいのアクセス数に耐えられるか(性能要件)
「全部お任せ」にしてしまうと、開発会社は彼らにとって作りやすい仕様で進めます。それがあなたのビジネスにとって最適かどうかは、別問題です。
4. 技術選定の「なぜ」を質問する
開発会社が「React を使います」「AWS を使います」と言ったとき、あなたは何を思いますか?
「よくわからないけど、プロが言うなら間違いないだろう」
そう思ってしまうのは危険です。
技術選定には、必ず理由があるべきです。そして、その理由はあなたのビジネスにとってメリットがあるものでなければなりません。
質問すべきポイント:
- なぜその技術を選んだのか?
- 他の選択肢と比較して、どんなメリットがあるのか?
- その技術を使える人材は市場にどのくらいいるか?
- 将来的に保守・運用できる体制は確保できるか?
特に最後の2点は重要です。
開発会社が得意だからという理由だけで特殊な技術を採用されると、その会社に依存することになります。契約が切れた後、保守できる会社が見つからない——そんな事態は避けなければなりません。
5. 契約形態(請負・準委任)の違いを理解する
システム開発の契約には、大きく2つの形態があります。
請負契約 「成果物を納品する」契約です。開発会社は、決められた仕様のシステムを完成させる義務を負います。
メリット:完成品が保証される、予算が確定しやすい デメリット:仕様変更に対応しにくい、見積もりが高くなりがち
準委任契約(SES、ラボ型など) 「作業時間を提供する」契約です。エンジニアが一定期間作業し、その時間に対して報酬を支払います。
メリット:柔軟に仕様変更できる、アジャイル開発に向いている デメリット:完成が保証されない、予算が読みにくい
どちらが良いかは、プロジェクトの性質によります。
- 要件が明確で変更が少ない → 請負契約
- 要件が流動的で試行錯誤が必要 → 準委任契約
重要なのは、契約形態を理解した上で、自分のプロジェクトに合ったものを選ぶことです。
6. 「技術的負債」という概念を知る
**技術的負債(Technical Debt)**という言葉を聞いたことがありますか?
これは、「今は動くけど、将来的に問題になる」コードや設計のことを指します。
わかりやすく言えば、「借金」と同じです。今は楽でも、後から利子をつけて返済しなければなりません。
技術的負債の例:
- テストコードを書かずに開発を進める
- ドキュメントを残さない
- とりあえず動くコードを書いて、きれいに整理しない
- 古いライブラリを使い続ける
開発会社に「早く」「安く」を求めすぎると、技術的負債が蓄積されます。
納品時は問題なく動いても、1年後、2年後に保守コストが爆発的に増加する——これが技術的負債の恐ろしさです。
見積もりが安すぎる場合は、「技術的負債を残す前提になっていないか?」と疑いましょう。
7. 知的財産権と所有権を確認する
開発したシステムの権利は誰のものか——これは契約時に必ず確認すべきポイントです。
多くの場合、以下のような権利関係になります:
- 著作権:コードを書いた人(開発会社)に帰属
- 利用権:発注者が取得
つまり、お金を払って開発してもらっても、コードの著作権は開発会社が持っていることが多いのです。
これが問題になるのは、以下のようなケースです:
- 他の会社に保守を依頼したいが、コードを渡せない
- 自社でエンジニアを採用したが、コードを修正する権利がない
- 開発会社が倒産し、権利関係が不明になった
契約時には、以下を明確にしておきましょう:
- 著作権は誰に帰属するか
- ソースコードの引き渡しは受けられるか
- 第三者への開示・委託は可能か
開発会社との契約で確認すべきポイント
こんな起業家は今すぐ行動すべき
以下のいずれかに当てはまる方は、今すぐIT知識の習得を始めるべきです:
- これから初めてシステム開発を発注しようとしている
- 過去に開発会社とのトラブルを経験した
- 現在進行中のプロジェクトに不安を感じている
- 開発会社の言いなりになっている自覚がある
- 見積もりが妥当かどうか判断できない
「いつかやろう」では遅いのです。
システム開発は、一度始まると後戻りが難しくなります。途中で「やっぱり違う」と気づいても、すでに投じた時間とお金は戻ってきません。
学ぶなら、プロジェクトが始まる前の「今」しかありません。
また、もし「一人で学ぶのは難しい」「実践的なアドバイスが欲しい」と感じるなら、専門家の力を借りることも選択肢です。
私たちアトリエ・バイナリは、「技術がわからないことで挑戦を諦める非エンジニア起業家をゼロにする」というビジョンのもと、開発の失敗回避、コスト削減、技術選定の支援を行っています。起業家の立場に立った、中立的なアドバイスを提供しています。
まとめ——「わからない」を武器に変える
まとめ:開発会社と対等に話すためのIT知識
この記事でお伝えした7つの知識を振り返りましょう:
- フロントエンド・バックエンド・インフラの違いを理解する
- 工数の概念と見積もりの読み方を知る
- 要件定義の重要性を認識し、曖昧にしない
- 技術選定の「なぜ」を質問する習慣をつける
- 契約形態(請負・準委任)の違いを理解する
- 技術的負債という概念を知り、長期的視点を持つ
- 知的財産権と所有権を契約時に確認する
これらは決して難しい知識ではありません。専門家になる必要はなく、「質問できるレベル」で十分です。
重要なのは、「わからない」を放置しないことです。
わからないまま丸投げするのではなく、わからないからこそ質問する。その姿勢が、あなたのビジネスを守ります。
開発会社は敵ではありません。しかし、あなたの会社の利益を最優先に考えてくれるわけでもありません。
自分のビジネスを守れるのは、自分だけです。
今日からできることを、ひとつずつ始めてみてください。見積書を読み返す、契約書を確認する、開発担当者に「なぜ?」と質問してみる——小さな一歩が、大きな違いを生みます。
あなたのビジネスの成功を、心から応援しています。