請負契約の「瑕疵担保責任」が変わった?民法改正後の契約不適合責任を解説
「瑕疵担保責任」がなくなった?——知らないままでは契約トラブルに直結する
「瑕疵担保責任って、もう使えないんですか?」
中小工務店や設計事務所の方から、こうした質問を受けることが増えています。2020年4月の民法改正(債権法改正)で、請負契約における「瑕疵担保責任」という概念は法律上なくなりました。
代わりに登場したのが**「契約不適合責任」**です。
しかし現実には、こんな状況が広がっています。
- 「改正されたのは知っているけど、具体的に何が変わったのかよくわからない」
- 「今まで通りの契約書で問題ないと思っていたが、顧問弁護士に指摘された」
- 「施主から"契約不適合責任"という言葉を出されて、対応に困った」
- 「旧民法時代の契約書テンプレートをそのまま使い続けている」
- 「追完請求、代金減額請求……新しい用語が多すぎて整理できない」
建設業界は長年「瑕疵担保責任」という枠組みの中で仕事をしてきました。現場の感覚と法律のルールがズレたまま仕事を続けている工務店・事務所が、実は少なくありません。
この記事では、旧民法の瑕疵担保責任と新民法の契約不適合責任の違いを、中小工務店・設計事務所の実務に即してわかりやすく解説します。
「今まで通りで大丈夫だろう」——その油断が一番危ない
この問題を放置しているのは、あなただけではありません。
建設業界は、法律の改正よりも目の前の現場が優先です。忙しい毎日の中で、民法改正の内容を一つひとつ精査する余裕がないのは当然のことです。
実際、改正民法が施行されたのは2020年4月。すでに6年が経過していますが、契約書を改正対応に更新していない事業者はまだまだ存在します。
その理由もわかります。
- 「今まで大きなトラブルがなかったから、変える必要性を感じない」
- 「法律用語が変わっただけで、実質的には同じでしょ?」
- 「弁護士に頼むとお金がかかるから、後回しにしている」
しかし、「用語が変わっただけ」では済みません。施主(発注者)が行使できる権利の範囲が大幅に拡大しています。旧民法時代の感覚のまま対応すると、予想外の請求を受けて対処できなくなるリスクがあるのです。
特に怖いのは、トラブルが起きてから初めて「法律が変わっていた」と知るパターン。その時点では、すでに不利な立場に追い込まれていることがほとんどです。
瑕疵担保責任と契約不適合責任——何がどう変わったのかを完全整理
ここからは、旧民法と新民法の違いを実務に直結する5つのポイントに絞って解説します。法律の教科書的な説明ではなく、**「で、自分の仕事にどう影響するの?」**がわかるように整理しました。
瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更点
ポイント1:「瑕疵」から「契約不適合」へ——判断基準が変わった
旧民法では、引き渡した建物に**「瑕疵(かし)」=欠陥・不具合**があった場合に責任を負いました。「瑕疵」の有無は、**一般的な品質水準(客観的基準)**で判断されるのが原則でした。
新民法では、**「契約の内容に適合しているかどうか」**が判断基準です。つまり、契約書や打ち合わせで合意した仕様・品質に照らして、不適合があれば責任が発生します。
実務への影響:
| 項目 | 旧民法(瑕疵担保) | 新民法(契約不適合) |
|---|---|---|
| 判断基準 | 客観的な品質水準 | 契約で合意した内容 |
| 争点 | 「欠陥かどうか」 | 「契約通りかどうか」 |
| 重要になるもの | 業界の標準的な施工品質 | 契約書・仕様書・議事録 |
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つまり、契約書や仕様書に何を書いたか(あるいは書かなかったか)が、これまで以上に重要になったということです。
口約束や「暗黙の了解」で進めていた部分があると、施主との間で**「合意した内容」の認識がズレるリスク**が格段に高まります。
ポイント2:施主の権利が大幅に拡大した
旧民法で施主が行使できたのは、基本的に**「瑕疵修補請求」と「損害賠償請求」**の2つでした。
新民法では、施主が行使できる権利が4つに増えています。
① 追完請求(修補請求) 「契約通りに直してください」と求める権利です。旧民法の瑕疵修補請求とほぼ同じですが、修補の方法は原則として施主が選べる点が異なります。
② 代金減額請求 追完請求をしたのに工務店が対応しない場合、「じゃあその分、代金を下げてください」と請求できるようになりました。これは旧民法にはなかった権利です。
③ 損害賠償請求 旧民法でも認められていましたが、新民法では契約不適合について工務店側に帰責事由(過失など)がない場合は免責されます。この点は工務店にとって有利な変更です。
④ 契約解除 旧民法では、建物の請負契約は**「建物が建ってしまったら解除できない」**という制限がありました。新民法では、契約不適合が重大であれば解除が可能になっています。
特に注意すべきは「代金減額請求」の新設です。 施主側が「修理はいいから、その分お金を返して」と言える権利ができたことで、金銭的な交渉のカードが増えたことを意味します。
ポイント3:期間制限(時効)の考え方が変わった
旧民法では、引き渡しから1年以内に瑕疵を発見して請求しなければなりませんでした(木造は5年、RC造は10年という特則あり)。
新民法では、**「不適合を知った時から1年以内に通知」**すればよいとされています。
| 項目 | 旧民法 | 新民法 |
|---|---|---|
| 起算点 | 引き渡し時 | 不適合を知った時 |
| 行使方法 | 1年以内に「請求」 | 1年以内に「通知」 |
| 通知の内容 | 具体的な請求が必要 | 不適合の事実を伝えればOK |
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実務への影響は非常に大きいです。旧民法では「引き渡しから1年」という明確な期限があったため、ある程度の時間が経てば責任から解放されました。しかし新民法では、施主が不適合に「気づいた時」が起算点になるため、引き渡しから数年経った後でも通知が来る可能性があります。
ただし、住宅品質確保法(品確法)による10年間の瑕疵担保責任は、民法改正後もそのまま適用されます。新築住宅の構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分については、引き渡しから10年間の責任を負う点は変わりません。
ポイント4:「隠れた瑕疵」の要件が撤廃された
旧民法では、売買契約の瑕疵担保責任は「隠れた瑕疵」、つまり買主が知らなかった瑕疵に限定されていました。
新民法の契約不適合責任では、「隠れた」という要件がなくなりました。施主が事前に知っていた不具合であっても、それが契約内容に適合していなければ責任が発生する可能性があります。
ただし、施主が不適合を知っていた場合には、信義則上の制限や、契約書での特約による対応が考えられます。契約書で明確に免責条項を設けておくことの重要性が、旧民法時代よりも格段に増しています。
ポイント5:任意規定であることは変わらない
重要なポイントとして、**契約不適合責任は「任意規定」**です。つまり、当事者間の合意(契約書)で内容を変更できます。
これは裏を返せば、契約書をしっかり作り込めば、自社にとって不利な状況を回避できるということです。たとえば:
- 契約不適合責任の期間を短縮する特約
- 代金減額請求を制限する特約
- 追完の方法を工務店側が選択できる特約
ただし、消費者契約法が適用される場合(個人の施主との契約など)は、事業者の責任を全部免除する特約は無効になる点に注意が必要です。また、住宅品確法の10年間の責任は特約で短縮できません。
中小工務店・設計事務所が今すぐやるべき3つの実務対応
法律の知識を理解したら、次は具体的なアクションです。「何から手をつければいいかわからない」という方のために、優先度の高い順に整理しました。
今すぐやるべき3つの実務対応
対応1:契約書テンプレートを改正民法対応に更新する
最も優先度が高いのは、契約書の見直しです。
チェックすべきポイントは以下の通りです。
用語の更新:
- 「瑕疵」→「契約不適合」に用語を変更しているか
- 「瑕疵担保責任」→「契約不適合責任」になっているか
- 「瑕疵修補」→「追完」「修補」の表現に更新されているか
実体的な条項の確認:
- 契約不適合責任の期間をどう設定するか(品確法の制約に注意)
- 代金減額請求に関する取り決めがあるか
- 追完の方法について、誰が選択権を持つか明記されているか
- 契約解除の条件が明確になっているか
注意: 国土交通省が公表している**「民間建設工事標準請負契約約款」**は改正民法に対応した内容に更新されています。自社の契約書と見比べて、漏れがないか確認しましょう。
対応2:仕様書・打ち合わせ記録の管理を徹底する
契約不適合責任では、**「契約の内容に適合しているか」**が判断基準です。つまり、契約の内容をどれだけ明確に記録しているかが、トラブル時の最大の防御線になります。
具体的に整備すべきもの:
- 仕様書:使用する材料、施工方法、品質基準を具体的に記載
- 打ち合わせ議事録:施主との合意事項を日付入りで記録
- 変更管理記録:途中で仕様変更があった場合の経緯と合意を文書化
- 写真記録:施工過程の写真を日付・場所とともに保管
「言った・言わない」を防ぐのは、すべて記録です。デジタルツールを活用して、打ち合わせの都度、議事録をメールで施主に共有し、確認をもらう仕組みを作りましょう。
こうした記録管理や業務フローのデジタル化でお悩みの場合は、中小工務店・設計事務所のDX支援を専門とするアトリエ・バイナリ(atelier binary)のような専門家に相談するのも一つの手です。現場の業務フローを理解した上で、無理のないデジタル化を提案してもらえます。
対応3:社内の認識を統一する——法改正の内容を現場レベルまで浸透させる
契約書を更新しても、現場の担当者が法改正の内容を理解していなければ意味がありません。
特に以下の点を社内で共有してください。
- 「瑕疵」と「契約不適合」の違いを、具体例を交えて説明する
- 施主から「追完請求」「代金減額請求」と言われた場合の初動対応を決めておく
- 仕様書に書いていない作業を施主に頼まれた場合のルールを明確にする(追加工事として契約変更する等)
- 施工完了後の不具合指摘に対する対応フローを整備する
「法律が変わったから契約書を直す」だけでなく、現場の行動レベルまで落とし込むことが、本当の意味での改正対応です。
こんな工務店・設計事務所は今すぐ見直しが必要
- 契約書テンプレートを2020年4月以降に更新していない
- 「瑕疵担保責任」という用語が契約書にまだ残っている
- 仕様書を作成せず、口頭での打ち合わせで工事を進めている
- 施主からのクレーム対応ルールが社内で統一されていない
- 住宅品確法と民法の契約不適合責任の違いを説明できない
一つでも当てはまる場合、法的リスクを抱えたまま事業を行っている状態です。トラブルが起きてからでは遅い——**「今は問題がないから」ではなく、「問題が起きたときに対応できるか」**で判断してください。
民法改正から6年。施主の法律知識も年々向上しています。ネットで簡単に情報収集できる時代、「契約不適合責任」を正しく理解している施主が相手になる可能性は、どんどん高まっています。
まとめ
まとめ:契約不適合責任への対応
民法改正により、請負契約の**「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」に変わりました**。これは単なる用語の変更ではなく、責任の判断基準、施主の権利、期間制限の考え方が根本から変わった大きな改正です。
押さえるべき5つの変更点:
- 判断基準の変更:客観的な品質水準 → 契約で合意した内容が基準に
- 施主の権利拡大:追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除の4つに
- 期間制限の変更:「引き渡しから1年」→「不適合を知ってから1年以内に通知」
- 「隠れた瑕疵」要件の撤廃:施主が知っていた不具合でも責任が生じうる
- 任意規定:契約書で内容を調整できるが、品確法・消費者契約法の制約あり
今すぐやるべき3つのアクション:
- 契約書テンプレートを改正民法対応に更新する
- 仕様書・打ち合わせ記録の管理体制を整備する
- 法改正の内容を社内に浸透させ、現場レベルで対応できる体制を作る
「うちはまだ大丈夫」と感じている今こそが、見直しの最適なタイミングです。トラブルが起きてから慌てて対応するのではなく、平時にこそ契約書と業務フローを整備しておきましょう。
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